もしも医療費が高額になったら? 高額療養費制度を解説!
もしも医療費が高額になったら? 高額療養費制度を解説!
お客さまからのご相談としてよく耳にするのが、「もし、ガンや心筋梗塞などで長期入院することになった時、高額の治療費が心配です」とのお声。
実は、高額な治療費が必要になった場合に国が生活を保障する社会保険として「高額療養費制度」があります。
今まで利用されたことがない方には聞き慣れない言葉だと思いますが、
給与から天引きされている健康保険や国民健康保険に加入している方が対象となる制度です。
「給与から天引きされる社会保険全般」については、こちらの記事で詳しく解説していますので、ご覧になってください。
ただし、医療費の全額が支給されるわけではなく、自己負担も発生しますし、高額療養費制度の対象外となる費用もあります。
今回は、「高額療養費制度」とはどんな社会保障制度なのか、対象外となる費用についても解説します。
また、テレビやニュースなどでご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、
政府は「2025年8月から高額療養費制度の負担上限額引き上げ」を国会で審議してきました。
2025年3月、上限額引き上げ方針は見送られることになりましたが、国会で審議されていたのはどんな内容なのかもお伝えします。
この記事の目次
1、 高額療養費制度とは?
2、現行の高額療養費制度
◉年齢と年収による区分
① 現役世代の場合(69歳以下)
② 70歳以上の場合
◉医療費の自己負担を軽減するしくみ
①世帯合算
②多数回該当
3、国会で審議されていた「2025年8月から高額療養費制度の負担上限額引き上げ」の内容とは?
◉2025年8月からの高額療養費自己負担限度額(見合わせ決定)
4、 高額療養費制度で対象外となる費用とは?
5、 まとめ
1、高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、医療費が高額になった場合に支給される制度です。
全ての方が安心して医療を受けられる社会を維持するために、国が生活を保証する社会保険です。
給与から天引きされている健康保険や国民健康保険に加入している方が対象となります。
ただし、医療費の全額が支給されるわけではなく、
同じ月に、医療機関や薬局の窓口(※1)で支払った自己負担額(※2)が上限を超えた場合に、その超えた金額が支給されます。
※1 同じ月であれば、複数の医療機関等(院外処方代を含む)での自己負担を合算します
※2 入院時の食事代や差額ベッド代などを除く
では、実際の自己負担額は、いくらぐらいになるのでしょう。
例として、加入者の年齢が40歳・年収約370万円~770万円(3割負担)の場合で確認してみましょう。
例えば、治療を受けた総医療費が100万円であったとします。
この方の場合は保健診療により3割負担のため、
医療期間の窓口で支払う自己負担額は30万円となります。
その後、高額療養費制度の申請を行うことにより、
自己負担限度額:87,430円(※3)を差し引いた212,570円が高額療養費として支給されます。
※3 この例の場合の自己負担限度額は、80,100円+(100万円−267,000円)×1% =87,430円 にて計算されます。
2、現行の高額療養費制度
◉年齢と年収による区分
では、次に高額療養費制度の自己負担限度額の計算方法について確認していきましょう。
以前に、年収の壁について解説しましたが、高額療養費制度も年収によって自己負担額が変わります。
年収の壁については、こちらの記事をご確認ください。
また、年収以外に、加入者の年齢によっても区分されています。
① 現役世代の場合(69歳以下)
69歳以下の方は、年収により適用区分が「ア」「イ」「ウ」「エ」「オ」に分けられます。
69歳以下の方は、後で解説する70歳以上の場合にある「外来のみ」の上限額は設けられていません。
出典:厚生労働省 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」PDFを加工して作成
高額療養費制度の自己負担額は、上の表に記載のある計算式で算出されます。
「ア」「イ」「ウ」「エ」の方は、70歳以上の方と同じ限度額となります。
69歳以下と70歳以上の場合の異なる点としては、
年収370万円未満:「エ」と住民税非課税者:「オ」の方に外来のみの上限額が設けられていない点と、住民税非課税者:「オ」の方の上限額が挙げられます。
「ア」「イ」「ウ」区分の場合は、実際にかかる総医療費によって限度額に変動がありますが、「エ」区分の限度額は一律で57,600円です。
また、住民税非課税者:「オ」区分の限度額は一律で35,400円です。
② 70歳以上の場合
70歳以上の方は、年収により適用区分が「現役並み」「一般」「住民税非課税等」に分けられます。
また、70歳以上の方には「外来のみ」の上限額も設けられています。
出典:厚生労働省 「高額療養費制度を利用される皆さまへ」PDFを加工して作成
高額療養費制度の自己負担額は、上の表に記載のある計算式で算出されます。
適用区分が「現役並み」と「一般」の方の場合、69歳以下の方と年収が同じであれば上限額は同じになります。
70歳以上と69歳以下の場合の異なる点としては、「一般」と「住民税非課税等」の方に外来のみの上限額が設けられている点と、
「住民税非課税等」の方の上限額が挙げられます。
「現役並み」の収入がある場合は、実際にかかる総医療費によって限度額に変動がありますが、「一般」区分の限度額は一律で57,600円です。
外来のみの場合の自己負担限度額は18,000円です。
また、「住民税非課税等」区分の方の場合は、以下の限度額が設定されています。
「Ⅱ住民税非課税世帯」の場合は、自己負担限度額24,600円となります。
年金収入80万円以下などの「Ⅰ住民税非課税世帯」の場合は、自己負担限度額15,000円です。
外来のみの場合の自己負担限度額は8,000円です。
◉医療費の自己負担を軽減する仕組み
高額療養費制度には、医療費の負担をさらに軽減するいくつかの仕組みがあります。
① 世帯合算
世帯合算とは、同一世帯で同じ公的医療保険に加入しているご家族分の医療費も合算し、一定額を超えた場合に、高額療養費制度を利用できる仕組みです。
・69歳以下の方は、医療機関ごとの1ヶ月の自己負担額が21,000円以上の場合のみ合算できます。
・70歳以上の方は、同月中に受診した医療費の自己負担額をすべて合算できます。
この仕組みにより、個人では自己負担額に達しない場合でも、世帯全体で限度額を超えると高額療養費制度を利用できるので、医療費の負担を軽減できます。
②多数回該当
多数回該当は、過去12ヶ月以内に3回以上、自己負担限度額を超えた場合、4回目以降の自己負担限度額が下がる仕組みです。
例えば、69歳以下で年収370万円~770万円の方の場合
・3回目までの自己負担限度額:80,100円
・4回目からの自己負担限度額:44,000円
この仕組みにより、長期におよぶ療養が必要な場合に医療費の負担を軽減できます。
3、国会で審議されていた「2025年8月から高額療養費制度の負担上限額引き上げ」の内容とは?
ここまでは、現行の高額療養費制度について確認してきました。
では、政府が国会で審議していた「2025年8月から高額療養費制度の負担上限額引き上げ」とは、どんな内容だったのかを確認していきます。
ただし、2025年3月、政府は「2025年8月から高額療養費制度の負担上限額引き上げ」方針を見合わせる決断をしました。
現段階では施行されないことが決定されておりますが、今回は今後の参考までに解説いたしますので、ご注意ください。
◉2025年8月からの高額療養費自己負担限度額(見合わせ決定)
当初案では、2025年8月から2027年8月にかけて3段階で限度額を引き上げするという方針でした。
こちらは、2025年1月23日に2025年8月からの高額療養費制度の見直しについて「厚生労働省 保健局」が提示した資料の抜粋です。
出典:厚生労働省 「高額療養費制度の見直しについて」PDFを加工して作成
負担額の増減割合は、以下のようになります。
年収約1,160万円~ → +15%
年収約770万円~ → +12.5%
年収約370万円~ → +10%
年収約370万円未満 → +5%
住民税非課税 → +2.7%
世帯ごとの上限額が引き上げとなっているのはもちろんのこと、多回数該当の上限額も引き上げられています。
また、当初の3段階での限度額引き上げ案では、2026年8月〜外来のみの限度額も引き上げられる案が策定されていました。
4、高額療養費制度で対象外となる費用とは?
高額療養費制度について確認してきましたが、対象外となる費用もあることにもご注意ください。
高額療養費制度の対象となるのは、公的医療保険の対象となる医療(保険診療)のみが対象です。
以下は、対象外となる主な費用です。
自費診療(自由診療)費
先進医療費
美容目的の治療費(美容整形や歯科矯正など)
差額ベッド代(個室や特別な病室を利用した際の追加料金)
入院中の食事代
入院時の日用品費(パジャマ、タオル、テレビカードなど)
医療保険適用外の治療費や薬剤費(漢方薬やサプリメントを含む)
交通費(通院や救急搬送の際の交通費)
診断書や証明書の発行費
予防接種費
個室を利用した際の差額ベッド代も対象外となります。
また、がん治療における先進医療や自費診療の費用も、高額療養費制度の対象外です。
先進医療とは、厚生労働大臣によって定められた高度な医療技術を用いた治療法のことをいい、公的医療保険が適用されず全額自己負担となります。
例えば、重粒子線治療や陽子線治療などの治療方法が挙げられます。
これらの高額療養費制度の対象外となる費用は、全額自己負担となるため、家計に大きな影響を与える可能性もあります。
差額ベッド代や先進医療に関する費用は、民間の医療保険に加入することで入院や先進医療にかかる費用に備えることもできます。
5、まとめ
今回は、「高額療養費制度」について解説しました。
もし、ガンや心筋梗塞などで長期入院することになった時、一定の額を超えた治療費は、
国の保障である「高額療養費制度」を受け取ることができます。
高額療養費制度を超えない部分の自己負担分や、高額療養費制度の対象外となる差額ベッド代や先進医療などについては、
それぞれの方に合った最適な医療保険を検討されるのが良いと思います。
国会で審議されてきた「2025年8月以降の高額療養費制度の上限額引き上げ」方針は、
患者の経済的負担が過度なものとなることを懸念した団体などの意見により、今回は撤回されました。
しかし、国内の医療費増加や経済環境の変化などを要因に、今後も高額療養費制度の引き上げは検討される可能性があります。
さらに、日本国内では、電気料金の値上げや物価高騰、お米の価格高騰などが私たちの家計を圧迫しています。
当社のFP(ファイナンシャルプランナー)技能士は、お客さま一人ひとりの幸せで豊かな暮らしの実現をサポートしたいと考えています。
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今回の記事に関するご質問はもちろんのこと、家計の見直しや資産形成など、
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